イタリアのミラノで2年に一度開催される木工機機械国際見本市「キシレクスポ2018」を視察した。この展示会も今回で記念すべき50周年を迎え、ドイツのハノーバーで隔年開催される国際見本市「リグナ」と共に、ヨーロッパを代表する木工機械の展示会となっている。
 5月のミラノは比較的天候が穏やかで安定している。今回も夕方から明け方にかけてシャワーのような小雨が断続的に降ることはあったが、日中は地中海らしい鋭い陽射しが新緑の木々の隙間から差し込んでくる。湿度は低くカラッとした風が吹いてきて、外を歩いていると心地良い。服装は基本長袖がメインだが、日が昇るにつれて半袖になりたい気分になる。真夏のような猛暑ではない、この爽やかな季節をイタリアで過ごすのは贅沢だ。
前回の3ホールから4ホールへ
 キシレクスポの規模や入場者数などの実数は公式サイトを参考にして頂きたいが、展示会場を概して見回せば、会場数が前回の3ホールから4ホールへと1ホール拡大していたのを始め、入場者も私が滞在した最初の二日間のうち2日目は特に盛況だった印象を受けた。前回の2016年は3ホール、前々回の2014年は2ホールだったことを考えると、今年の1ホール拡大し4ホールを使用したことは展示会にとって大躍進といえる。その4ホールのブースも僅か数週間で売り切れたというから、イタリアを始めヨーロッパ経済、そしてアメリカ、アジア各国経済の好況感が伺える。イタリアの木工機械業界にとっても昨年2017年は、リーマンショック時の大不況の時から過去10年間で最高の生産高と輸出額を叩き出している。2018年も引き続き好調で、どのメーカーも多くの受注残を抱えていると営業マンは口を揃える。
ネットでの事前登録が進む
  展示会専用アプリも登場

 初日の早い時間から会場に向かったが、ハノーバーのリグナ展のような開場前から人でごった返すことはない。ひとつにはネットでの事前登録が進んでいるようだ。プリントまたはスマホで事前登録したバーコードをかざせば、スムーズにゲートを通過できる。数年前まではこのシステムに困惑する人が多く、逆にゲート前が混雑してしまっていたが、今はもうすっかり定着したようだ。入場券を交換するために大勢いたカウンターの女性達も、気がついてみれば今はほとんどいない。無人化が急速に進んでいる。
 もう一つのデジタル化は、展示会専用アプリの登場だ。私は今年3月ドイツのニュルンベルクの木工機械展で初めて使ってみたが、このアプリは非常に使い勝手がよい。今までは、メーカーのブースを探すのに大きな会場マップを手にし、分厚いガイドブックで検索しながら会場を徘徊していた。しかしこの専用アプリがあれば、同様の機能かそれ以上の仕事をしてくれる。行きたいメーカーブースを事前に検索し“お気に入り”に登録しておけば、いつでも簡単にアプリで呼び出せ、会場内を迷うことなく目的のブースに辿り着ける。デジタル時代を反映したハイテク展示会が、ヨーロッパでは普通に展開されている。それに比べ日本の展示会はどれも遅れている。東京ビッグサイトで毎年開催されている世界規模の最先端工作機械展ですら、入場者は皆名刺を2枚持って長い列に並んでいる。入場する時も自動ゲートはなく、係員が入場者一人一人の入場券を目で確認。ものづくり大国を掲げる我が国だが、展示会もインフラから変革する必要がありそうだ。
“インダストリーX.0”を目指す
  “スマートファクトリー”へ

 キシレクスポ2018は「最先端技術を見せる展示会」を約束し、木工業界で最も進んだソリューションを提案する“インダストリーX.0”を目指す。数年前からドイツ主導で始まったインダストリー4.0でイタリア勢は若干遅れをとっていたが、今回の展示会では肩を並べるほどの進化を遂げた。会場全体がインダストリー4.0を具現化するため、IoT、AI人工知能、多彩でより正確なロボットの活用、クラウドを介したタブレット・スマートフォンの使用など多様なデジタルツールを駆使し、無人化の進んだオートメーションシステム、“スマートファクトリー”を作り上げていた。前回のキシレクスポとは全く違う、新たな技術革新へのステージを築き上げたといえる。
 各メーカーがインダストリー4.0に取り組む際のタイトルはそれぞれ違うが、目的や方法論は同一の方向を向いている。まずベースにあるのはIoT。とにかくものとものを“つなぐ”ことから始まる。ハード的に機械と機械を“つなぐ”のは、ロボットであり従来の搬送装置である。特にロボットの活用は年々着実に増えている。ホマッグは、ロボットやコンベアの他に小回りの利く無人自動走行車も用いて、一品生産ができる製造ラインを提案していた。
ソフト的に“つなぐ”
 次につなぐのは、目には見えないインターネットやクラウドを介したネットワークでソフト的に“つなぐ”ことである。機械と機械をネットワークでつなぐ、生産ラインと工場の管理PCをつなぐ、オペレーターのタブレット端末につなぐ。ユーザー工場内をネットワークでつなぐことによって、各機械の稼働をモニターし生産ラインの生産状況を管理する。生産ラインからあがってくるデータを蓄積しそのデータ群を元に統計を取り生産計画を立てる。ここまでの過程は、昨年のハノーバー・リグナでもどのメーカーもIoTのソリューションとして提案していた。

 次のIoTのステージは、ネットワークで「ものと人」、「機械と人」、「人と人」を“つなぐ”ことである。  ↗
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株式会社 コーエキ
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大工道具を積んだ自転車
静寂な早朝のドゥオーモ






















 今回のキシレクスポではどのメーカーもここに注力していた。メーカー側の目的はアフターサービスの充実と簡素化であり、ユーザーの目的は機械トラブルの予知と生産性の向上である。それらは全てメーカーが独自に開発するソフトウェア上でモニタリングと管理を行う。
 例えば、機械の稼働時間の計算。従来でも機械の稼働時間は機械のインターフェースやNC画面上でオペレーターが確認することができた。それが今のソフトを使うと機械の稼働時間を累計するだけでなく、メンテナンスの注意喚起や保守点検箇所、時期などをソフト上で正確に知らせてくれる。また機械内部にセンサーを取付けることで、機械稼働部の振動や温度の検知・モニタリングを行っており、異常があればソフトを介してオペレーターないしは管理者に逐次報告することが可能だ。機械に異常が発生しエラーメッセージが出ると、機械画面上だけでなく管理PCのソフトにも表示され、トラブルシューティングが瞬時に機械メーカーから提示される。メーカーのアフターサービスセンターとネットワークでつながっているので、チャットもしくはインターネットを介した電話でメーカー技術者とトラブルの状況や対策を相談することができる。そしてメーカー技術者は、ネットワークを介して機械のインターフェースのみならず、制御盤内のPLCやサーボコントローラー、CNC装置といった制御機器につなげて不具合箇所を発見することも可能になる。
タブレットやスマートフォンでも操作可能
 さらに、機械メーカーが運営する“オンラインショップ”にもつながっており、不具合箇所が特定し交換部品が判明すれば、オンラインショップでその部品をクリック一つで注文することが可能となる。その場合には掛売りではなく、クレジットカード決済や電子マネー決済が一般的になるだろうが…。
 ソフトウェアはPCだけでなく、タブレットやスマートフォンでも操作可能である。実際に、ヴァイニッヒのブースでQRコードからアプリをダウンロードしてみた。稼働状況モニター機能、メンテナンス状況、前述したオンラインショップ、サービスコールなどのコマンドがあり、絵柄がわかりやすく配置もすっきりしている。工場に監視カメラを配置すればこのアプリを通して工場の状況を見ることも可能になるのだろう。
 各メーカーそれぞれが独自にソフトウェアを開発しユニークな名前をつけているが、多少の差はあれ似たようなシステム内容になっている。ホマッグは「タピオ(tapio)」という名称、SCMは「マエストロ(Mestro)」、ビエッセは「ソフィア(Sophia)」などである。各ブースではソフトウェア専属の技術者がいて、PCの前で丁寧に説明してくれた。

素朴な疑問を質問=A

・素朴な疑問を質問してみる。
私「古い機械もネットワークにつなげるの?」
メーカー「2015年以前の機械には対応していません」
私「他社メーカーの機械もつなげてくれるの?」
メーカー…「それはちょっと……できません」
 これから新設工場を建設し、新しい製造ラインに投資するユーザーならこのネットワークを使うことができるが、古い機械を更新しながら工場を運営しているユーザーにとっては、このシステムの恩恵を受けるのは難しいことになる。それに、一つのユーザーが機械設備をするのにメーカー1社だけを使うのか、という疑問は残る。メーカーの立場からすると、自分の機械だけを使ってもらいたい気持ちはわかるが、ユーザーはそれを望んではいない。展示会でメーカーが提案するものと、現状のユーザー工場の間にギャップがあり、これを埋めることが今後の課題となる。しかし、このギャップを埋める企業は既に存在していた。大きな展示会場の中心を占めるのはホマッグやビエッセといったビッグネームのメーカーだが、その周辺に小さなブースを出している会社の中にITソリューションを提案する会社がいくつか出展していた。
素朴な疑問を質問=B
・先程の疑問をぶつけてみる。
私「古い機械、例えば10年前の機械もネットワークにつなげるの?」
技術者「制御装置の種類や型式にもよるが可能です」
私「違うメーカー同士でもネットワークでつなげられるの?」
技術者「もちろん可能です」
 機械メーカーでは営業的にもできないと言うことは理解しつつ、ネットワークをそれぞれの工場に合わせて構築してくれるIT企業がすぐ近くに存在することがわかった。インダストリー4.0の裾野の広さを垣間見たのと同時に、今後益々進化し大きく展開していくことを確信した。
新たなステージへの幕開けに
 キシレクスポ2018は、新たなステージへの幕開けになったのは間違いない。昨年のハノーバー・リグナの展示会までは、インダストリー4.0に対し各メーカーが模索しながら何かを生み出そうとした期間であった。今回の展示会ではユーザーに向かってインダストリー4.0を形で示して、みなが自分のものとしてイメージできる段階になったと言えるのではないか。
 この記事では各メーカーの新商品や新技術に細かく焦点を当てることはしないが、それ以上に今回のインダストリー4.0に向けた大きな変革の波を感じられたことが大きな収穫となった。日本の企業がどれだけこの波を感じ、日本で実行していくのか。新しい技術革新についていくのか、現状のままで取り残されていくのかを真剣に考える時かもしれない。生産設備を持つユーザー、機械を開発し製造する機械メーカー、その間に立ち新たなソリューションを提案するディーラー、三者がそれぞれの立場で新しい技術革新の次のステージへと挑戦しなければならない。
寄 稿
XYLEXPO 2018 を視察して
回は、各ホールを隈なく見て歩きましたが、視点を上述の内容に重きを置いていましたため、
写真撮りの方は疎かになりました参考までにご覧ください。
SCM 「マエストロ(Mestro)」
ビエッセ 「ソフィア(Sophia)」
ホマッグ 「タピオ(tapio)」
 イタリア・ミラノでキシレクスポ(Xylexpo)2018が5月8日から12日までの5日間
開催された。そのうち8日と9日の2日間に亘り展示会を訪れた。イタリアは夏を
迎える前の清々しい季節で、両日共に快晴に恵まれた。
野 田 正 峰 株式会社コーエキ 代表取締役
ホール見て歩き