● 寄 稿 ●

■はじめに
 二年に一度開催される木工機械の国際見本市「リグナ2017」を視察した。開催期間は2017年5月27日から31日までの5日間。今年はそのうち三日間を展示会に費やした。ドイツの北部に位置するハノーバーの5月末の気候は爽やかだ。滞在期間中は雨にあたることもなく、日中は青空がのぞいていた。ただ朝晩の気温は一桁台と冷え込み、本場ドイツのビアホールを外で楽しむにはまだ少々肌寒い。
 日本の木材業界は明るい兆しが感じられる話題が多い。国産材自給率50%の目標を掲げる政府の後ろ盾を受けて、国産材の拡大利用、公共建築物の木造化、CLTの活用といった木材関連施策が活発だ。特に製材、合板業界は、補助事業の恩恵もあり加工施設の設備投資が進み、老朽化した設備や機械を先端設備に入れ替えや、生産性向上や増産を見込んだ設備増強に励んでいる。その結果、日本の機械メーカーからは数カ月から一年超の受注残を抱えるといった嬉しい悲鳴も聞こえてくる。
 一方、ヨーロッパは政情が安定していない。ユーロ危機が一段落するのも束の間、イスラム国の台頭、大量のシリア難民の流入、無差別的に発生するテロへの恐怖、それらがEU経済に影を落とし始めている。さらにアメリカのトランプ政権の発足、イギリスのEU離脱などが原因で、世界協調路線から自国ファースト主義へと世界の潮流が変化しつつある。
 欧州の政治不安がある一方、木工機械業界はリーマンショック時の落ち込みから回復の兆しを見せている。例えば、イタリアのACIMALLの報告によると、2016年の木工機械の生産量は前年比約10%増で、輸出、国内消費共に伸びている。2014年から2年連続の大幅増産となっている。
 2017年は国主導のインダストリー4.0を背景に、さらに20%増を予測している。EU諸国の中で特にイタリアは経済が停滞していた国であったことを考えると他国も同様に良い方向に向かっていると考えられる。

■会場レイアウト変更
 今回展示会場を歩いて、いつもとは違う感覚に少し戸惑う。展示会場のレイアウトが変更されていた。各ホールにどのメーカーがいて、どんな分野の企業が集まっているか例年通りだとわかりやすかった。例えば製材機械関連は例年27ホールだったが、今回は26ホール。無垢材加工機械関係はいつも12ホールだが、今回は27ホール。といった具合に、今までのホールとは場所ががらりと変わっていた。

■インダストリー4.0
 前回の展示会に引き続き、今回も各機械メーカーが掲げる大きな主題となった。前回までは業界を引っ張るリーディングカンパニーが積極的にこの題目に取り組んでいたが、今回は比較的小さなメーカーでもインダストリー4.0に取り組んでいた。日本でも政府主導でインダストリー4.0に関連する設備に対して助成金を出す政策を打ち出している様に、欧州各国でも政府が率先してインダストリー4.0を推し進めている背景がある。IoT(ものとものをインターネットでつなぐ)、AI(人工知能)やロボットの活用、機械とそれらをつなぐソフトの開発と、この主題に対する技術的な課題は多岐に渡る。各機械メーカーが研究開発に励むことで木工機械業界の技術力が底上げされている、そのパワーを展示会で感じた。

■製材機械の技術革新
 欧州の製材工場が進む方向は基本的に二つある。製材ラインの高速化と歩留りの向上である。特に後者の歩留まり向上に関しては、薄鋸の開発などハードの面と高性能なスキャナーと複雑なソフトを活用するソフト面とがあり、各メーカーが技術開発にしのぎを削っている。

■各メーカーの製品を見てみよう

HewSaw:フィンランドのメーカーHewSawは、新製品の大型製材機をブースのど真ん中に据えていた。”DXソーイング“という新技術を使った機械で、ラインの更なる高速化と歩留りの向上の両方向からのソリューションを提案する。簡単にいうと、ギャングソーの丸鋸の前に毛引き刃の役割をした丸鋸を縦に並べて、二回に分けて鋸を通すというもの。切削抵抗が二回に分かれることで、送材速度が上がり鋸も薄くなるという仕組み。世界一速い製材機械を作るHewsawは、更なるスピードアップの限界にチャレンジしているようだ。
VK:フィンランドのバーカーメーカーのVK社は、大径木用バーカーの新製品「VK100」を披露した。モデル名の通り直径100cmまでの丸太を通すことができる。従来のバーカーは送材スピードが毎分20m程度だったが、新モデルは毎分45mまで速度を上げることが可能だ。スピードアップに伴い、刃物の刃圧機構が従来のスプリングタイプからアキュムレーター式に変更し耐久性も向上させた。

ヘイノラ:フィンランドのヘイノラ社は、小規模工場向けのコンパクトな製材ラインを提案した。丸鋸プロファイラーラインにメリーゴーランドシステムを採用し、省スペースで高効率なラインを組むことが可能となった。丸鋸ギャングソーにはヘイノラ独自開発の“シンクロ”システムを取り入れて、ダブルアーバー式ギャングに特有な上下鋸間のギャップを解消した。ヘイノラ社は、製材ラインだけでなく、ソーターラインや高性能なドラムチッパー、最近では大型乾燥機の導入も盛んに行なっている。
MEM:フランスのMEM社では、ユーザー製材工場にIoT技術を導入し、機械メーカーからモニタリングするシステムを開発している。監視カメラを工場内に設置し、インターネットでつなぐことにより、ユーザーの機械をメーカー側で監視、モニタリングすることができる。展示会では、スマホで監視状況のプレゼンをしてくれた。機械の稼働状況を逐次データベース化し数値で機械を管理、さらに機械の故障や不具合時に迅速な対応ができるようになる。

■加工機械メーカーの動向
ホマッグ:ドイツの最大手メーカーホマッグは、今回も展示会場にプラントをまるまる一つ持ってきた。インダストリー4.0の最先端を走るホマッグ社は、このプラントをネットワークで構築し、単品生産を可能にするラインを提案した。大きなプラントのライン上には、一つ一つ寸法も形状も違った部材が効率良く淀みなく流れていく。ラインの途中にはその部材を寸分の無駄なく仕分けていくロボットアーム。動きが滑らかで印象的だ。ラインを見渡せる見学通路から思わず立ち止まって眺めてしまった。
 ホマッグ社のハード面の魅せ方もさることながら、今回はソフト面の展示に目が釘付けになる。“tapio”と書かれた黒に白抜きの文字がブースの上部に浮かび上がっている。IoTをさらに進化させ、インダストリー4.0を次のステージへ、というメッセージが込められている。機械同士をネットでつなぐのは当たり前、クラウドで情報を共有し、デジタルガジェットを活用し、さらに工場の外のモノや会社とネットでつながる。そして情報を共有し合い互いの効率を図るネットワークを作ろうというのだ。機械装置の販売だけに留まらない同社の壮大な理念がうかがえる。
SCM:イタリア最大手のメーカーSCMも、インダストリー4.0を念頭に置いたラインを提案する。ホマッグの機械の魅せ方とは違い、パズルのように機械をびっしりと並べている。SCMがテーマに掲げるのは、“インダストリー4.0”と“大量カスタマイズ化”(mass customization)をリンクさせた“リーンセル4.0”と呼ぶ生産方式。SCM開発のソフトウェア“マエストロ・ウォッチ”により全システムを制御する。セルシステムにより一人のオペレーターが自動ラインを管理し、パネルの木取りから家具の組立までを一貫生産する。SCMはCNC制御の機械だけでなく、比較的小型な“クラシカルマシン”と呼ぶ汎用機械の開発にも余念がない。NC制御装置を使わずに、デジタル機器で簡単に操作できる使い勝手を重視した小型機も発表していた。
PADE:家具部材、特に脚物の部材を加工する5軸制御CNCを得意とするイタリアのメーカー。最近はスタンダードな機械を販売するというよりは、お客様一人一人に合わせた特注のCNCマシンを設計製作することが多いようだ。展示会で目を引いた機械は、従来のT字型回転ヘッドに、ボーリングヘッドを併設したCNCマシンだ。パネル加工にも対応するマルチ型CNCマシンを目指したものかもしれない。前述で既に説明した大手メーカーがつくるCNCに対抗できる商品の一つになるだろう。

■日本人の動向
 今年のリグナには日本人がたくさん詰めかけたようだ。欧州メーカーも、中国人よりも日本人が多いと驚いていた。設備投資意欲が旺盛な証拠だと都合の良い推測をしたくなる。日本の木工機械メーカー数十社からなる日本木工機械工業会からも50数名の団体で日本から来ていたと聞いている。 
 単なる物見のお上りさんの時代は終わった。機械メーカーなら、欧州の動向を見、機械のトレンドをいち早く嗅ぎつけて、日本に持ち帰って自社の機械開発にぜひ役立てて欲しい。弊社を始めとする機械商社は、世界の情勢を地元のお客様に伝える義務がある。普段工場にいる日本の地方のお客様はなかなか生の、しかも世界の情報というのは届かないもの。それを正確にリアルに伝えていくのが、我々の使命だと思っている。
 日本の木工機械メーカーも今回ブースを構えて機械を展示していた会社が数社あった。ブース内がお客さんでいっぱいの会社もあり、今後の世界展開が非常に楽しみ。今はまだ世界の大手メーカーと肩を並べる日本のメーカーはいませんが、技術的にも営業マーケットでも世界に打って出る企業がこの木材業界でも出てきて欲しいと願う。

                                                                Woodfast '17-08

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次回のリグナ・ハノーバー展の日程は既に決まっていて、2019年5月27日から31日。まだまだ先の話ですが、どんな新しい機械が誕生するか、今から楽しみにしている。

リグナ・ハノーバー2017を視察して

ホ ー ル か ら ホ ー ル へ と 歩 い て… ス ナ ッ プショットア ト ラ ン ダ ム 

野 田 正 峰 (株式会社コーエキ社長)