(一社)日本木工機械工業会(名古屋市中区大須4-11-39、宮川嘉朗理事長=宮川工機㈱会長、電話052-261-7511)は、1月22日、午後2時45分から東京・港区芝の機械振興会館6D-1号室で新春講演会と同館倶楽部で新年祝賀会を開き、木工機械業界関係者、学識経験者、行政関係者ら85名が出席した。
 講演会は雨宮礼一東京連絡事務所所長の司会で進められ「名古屋城本丸御殿復元の舞台裏」と題して、㈱東海木材相互市場社長の鈴木和雄氏が、名古屋城本丸御殿復元工事2009年~2013年の第1期分が、昨年5月から一般公開されている玄関、表書院、中之口部屋の建築様式について、戦災から守るため保管した貴重な写真や図面を基本的に順守し、微細な部位に至るまで徹底した復元作業が行なわれているという。
 その中で主材のヒノキ、スギ、ケヤキ材などの納材に至る選木或いは集材の難しさや細部に亘り施した匠の技をプロジェクターで解説した。
総事業費約150億円、
名古屋城本丸御殿復元工事に携わって

 先ず、この名古屋城本丸御殿復元工事については、着手前の2004(平成16)年、当時の松原武久市と面談した際に、本件に触れたことがあった。その時は折角、復元するなら焼失前の建築様式を伝承して後世に残るものにしましょう、そして歴史的意義を踏まえて文化遺産に登録されるような本格的な建築を目指すなら協力は惜しみません。と話したことがあった。
 その後、復元計画は諸事に紆余曲折はあったが、予定した総事業費約150億円は文化庁50億円、名古屋市50億円と寄付50億円も集まり、必要とした事業費の見通しは立った。そして施工業者も入札により㈱安藤・間、松井建設㈱、八神建築㈱の特別共同企業体に決まり、2009(平成21)年1月、約400年前に建造した豪華絢爛な建築様式を蘇らせる本丸御殿の第1期復元工事に着手した。
 第1期分の工事は、2013(平成25)年5月に完工して玄関、謁見の場である表書院、中之口部屋などが一般に公開された。復元工事に当たっては全て原則として当時の写真や実測図に基づいて、材料はもとより工法に至るまで再現が必須の条件としている。
 見学路順に見ると、復元した玄関車寄せの鏡柱はヒノキ三面無節、芯去り赤身柾目の376×278×4800㎜二本を使い、そして表書院など各部屋の柱もヒノキ260角×4900~6300㎜の三面または四面無節、芯去りの赤身材を揃えなくてはならない。これらの柱を採るには樹齢300年を超える樹でないと木取りはできない。今時、ハイ即、納材しますという代物ではない。
 また、梁桁についても芯去り赤身の仕様は、当然、納材は難しいと申し入れると、では芯持ち材を良とするならば背割りを入れないで欲しいと要望される。これまた干割れを防ぐには背割りはどうしても必要と話し合いを進めているところ。
 さらに木曽ヒノキ限定を、地域のヒノキと範囲を広げてもらうなど“無いものねだり”とまでは言わないが、復元には産地限定や予算との兼ね合いもあり、その集材には並々ならない時を要しているが、あくまでも限りなく史実に忠実を心掛けている。
 次に、杮葺(こけらぶき)について、材料の指定はサワラ材であった。着工後サワラで一棟分の屋根葺は賄えたが、ほかの棟はサワラで全量を賄うことは至難と分かりスギ材に変更している。
 次に小屋組みについて、マツ材の仕様であったため、虫喰いの少ない赤マツ材を求め奔走して素材は確保したものの、人工乾燥すると歪みと寸法減りが著しく、使えないことが分かり結局全てヒノキに変更した。
 また、玄関棟は一之間18畳、二之間28畳からなり、ここで使う野地板だけはスギ材を使っている。この納材に際して一般の商慣習で行なう検品は、目視と抜き取り程度で良とするものが、ここでは18×150×4000㎜もの野地板の検品担当者は巻尺で一枚一枚検品する。また、垂木なども一本一本検品する念の入れようである。
 木材加工について、機械で加工する部材は柱、桁、長押など一次加工は四面かんな盤である程度の寸法まで加工して、後は電動カンナを一部使いながら基本的には手カンナで仕上げる。仕口の切り込みはノミとノコで刻み加工している。この作業期間に限り加工場には大工約60人が数か月の間、勢揃いする姿は圧巻であった。
 木材乾燥について、基本的には15%以下の自然乾燥材であること、人工乾燥材は不可の仕様であったが、現実問題として径の大きい物は自然乾燥材で揃えることは無理であること、納期に間に合わないことなど、結局は一部の材について人工乾燥を認めましょう、となった。
 使用する木材は、当然、外国産材はダメで国産材に限る。その上で産地はどこで、どこの地区から伐採したかの証明を出すこと。この条件を満たすには果てと困りました。復元する建築仕様に求められる木材は、今から10年も20年も前に伐採した原木の購入者が、原木のままか、或いは半割にした状態で長年、自然乾燥している中から一本一本選んでいる。さらに何時伐った木か、どこで購入した木か、いわゆる出生証明なるものを提出しなさいなど、そもそも無理難題と思えるようなことが仕様書に書かれている一例です、と話す。
 講演は、主な材料のほかに天井の造りは、竿縁天井や格天井、折り上げ小組格天井など高位、格式に応じて使う部屋による違いや床や敷居に無垢のケヤキ一枚板や角材が使われている豪華さや復元作業に欠かせない左官、建具、欄間、表具、障壁画、飾金具、和釘、畳、織物、瓦、石工に至るまで、それぞれの職人技を随所に蘇らせている現代における匠による再現の様子を解説した。
                (文責編集子)

鈴木和雄氏プロフィール
1943(昭和18)年 生れ
1966(昭和41)年 日本大学理工学部機械工学科卒
1966( 〃 41)年 材摠木材株式会社入社
2006(平成18)年   〃 代表取締役会長就任
2010(平成22)年 退任
2000(平成12)年 ㈱東海木材相互市場
        代表取締役社長就任

㈱東海木材相互市場
名古屋城
1945(昭和20)年5月 戦災で焼失する前の写真
現代に蘇る第1期復元の名古屋城本丸御殿
新 年 祝 賀 会 も 開 く
 講演会終了後、出席者は席を移し新年祝賀会に臨んだ。日本木工機械工業会・宮川嘉朗理事長の挨拶で始まり、来賓の公明党石田祝稔衆議院議員、経済産業省産業機械課須藤治課長、林野庁木材産業課長飛山龍一課長、日本合板工業組合連合会井上篤博会長各氏が祝辞を述べた。全日本木工機械商業組合桑原柾人理事長の乾杯で開宴し歓談の輪が広がった。
上の作業場と同じ
原寸図作業場
加工の様子をパネル展示

第2期工事=対面所・上台所・梅之間など2016(平成28)年完成/第3期工事=上洛殿・黒木書院・御湯殿書院など2018(平成30)年完成
表書院上段之間北面 折上げ小組格天井
表書院二之間北西面 
<上写真8点名古屋城HP/本丸御殿復元写真資料より>
素屋根内の第二期復元工事中の対面所ほか
木材加工場内
表書院上段之間
表書院上段之間の床 ムクのケヤキ板
玄関から表書院へつづく廊下の竿縁天井
一般社団法人 日本木工機械工業会

新春講演会と新年祝賀会開く
左から東南隅櫓、中央に復元工事現場、天守閣
表書院一之間東面
Woodfast'14-2
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表書院三之間北西面 格天井
玄関一之間東面
本丸御殿玄関車寄せ
公開している殿中と作業場woodfasst:2月5日撮影


玄関東側軒の一部
玄関車寄せ
講師の鈴木和雄氏
鈴木和雄氏が「名古屋城本丸御殿復元の舞台裏」について講演
玄関廊下左から一之間、二之間