→また、木工旋盤の複合機が数社から展示されていた。木工旋盤のCNCマシンは既に普及しているが、更に進化させCNC旋盤にルーター軸、ツールチェンジャー、プロファイリング軸、サンディング軸などの多軸を搭載する複合機が出展されていた。脚物や階段の複数加工工程を一台の機械でマシニングするというコンセプトである。

3. 製材機械の技術革新

 欧米では企業の吸収合併やグループ企業化は日常的に行われているが、製材機械業界でもリグナ・ハノーバーの直前に大きな企業合併が行われた。アメリカの大手製材機械メーカーUSNRがスウェーデンのソーダーハムを吸収した。今回の展示会でのプレゼンスは大きく、見慣れた両企業のマークが仲良く並んで展示ブースを作っていたのが印象的だ。ブースに入るとUSNR側のアメリカの営業マンが熱心に話しかけてきた。合併の意図を聞くと「ヨーロッパやロシアのマーケットに積極的に参入したい。アメリカのマーケットは現状飽和状態になりつつある」アメリカ人らしく目的はストレートだ。ヨーロッパの製材機械業界の勢力図が変わる予感がする。
 ドイツのリンクが4面チップキャンターシステムを開発した。従来の左右両側のチップキャンターを2台並べる方式から、上下のチップキャンターを取り付けて4面を一度に切削する一体型の機械を開発した。従来のチップキャンターよりも、コンパクトな製材ラインを構成することができる。4面チップキャンターの先駆けであるフィンランドのヒューソーを意識した製品開発といえる。丸鋸製材ラインの両巨頭であるリンクとヒューソーのシェア争いが激化することは必至である。
 フィンランドの皮むき機メーカーのVKは、高速タイプのVKバーカー「VK8000」を展示した。同機はVKが持つ最高機種であり、1リングタイプで毎分最大120m、2リングタイプで毎分150mの送材スピードを誇る。また、中径木から大径木に対応し、さらにオプションでバットエンドリデューサー(丸太の根張り取り機)を1リング追加することができる。

 
       VKバーカー「VK8000」

 製材機械のコンピュータ化、オートメーション化も年々革新している。特にスキャナーによる画像解析技術は劇的な進化を遂げており、製材工場の歩留まりと生産性の向上に貢献している。丸太、側板のスキャニング、製材製品のグレーディングにスキャナー技術が駆使されて、精度の高い製品管理を可能にした。
 ネットワーク化による森林管理システムは、山元の森林から丸太を伐採し、運搬、製材工場の受け入れ、製品の搬送、流通と一元管理化するシステムが進んでいる。例えば、製材工場のメリットとしては、これまで数か月分の丸太を工場に在庫する必要があったが、山元とのデータ共有により逐次丸太の供給をシステム化できるので、数週間分の丸太の在庫のみで工場を運営することができるようになった。

4. バイオマス関連
 バイオマス関連の機械は、かつて“バイオマスホール”と呼ばれた13ホール、それから展示ホールに囲まれた真ん中にオープンスペースに集まっている。オープンスペースでは、林業機械やチッパー機などの大型機械の実演が行われており多くの見学者を集めている。
 日本では木質バイオマス発電が今一大ブームである。ここヨーロッパはバイオマス先進国である。機械単体だけではなく、バイオマスを取り巻く環境及びそのシステムを学ぶことができる。
 フィンランドのヘイノラ(HEINOLA)は、チッパー機および製材機のメーカーである。森林の林地残材をチップにするモバイルチッパー機から、製材工場の背板用チッパー機を製造している。
 今年、日本へ数台のチッパー機を導入する予定であるが、チッパー機に最も要求される切削能力、堅牢性、メンテナンスの容易さが優れている。
 ペレット、ブリケット製造機は今回の展示会では下火になっている印象を受けた。ペレットやブリケットの需要が減少した訳ではないので、設備に対するマーケットが飽和状態になっているのかもしれない。
 いずれにせよ、バイオマス関連の分野は今後も注目され続けるであろうし、特に日本は原発稼働停止の問題などから、バイオマスを含めた代替エネルギーを重視する方向性は変わらないであろう。

 
     オープンスペースでの機械展示

5. おわりに
 日本の機械ユーザーが遥々ドイツまできて、機械の展示会を見る理由は何だろうか。一番には世界で最も優れた機械が集まるから、その可能性を見極めるためだろう。「同じ能力の高性能の機械が日本にあったら…」という声をよく聞く。日本にあったら、日本人が作っていたら、安心して使えるだろうと。
 しかし、この木材加工機械業界についてのみ言えば、日本と海外との技術格差は広がる一方だと感じる。もちろん突出した技術を持って海外に進出している日本企業もあるがほんの僅かだ。
 今回のリグナには機械ユーザーだけでなく、機械メーカー、機械ディーラーも大勢押し寄せていた。技術革新するヒントを見つけ、木材業界が進む方向性をここで見極めて、海外に負けないものづくりをするために、日本の土壌で世界と勝負していかなければならない。優れた技術や機械があってはじめて、日本の木材加工業も世界と戦っていける。
 ドイツは、インダストリー4.0を国の政策として押し進めている。この流れは遅かれ早かれ世界中に広がり、そして日本にまでやってくる可能性を十分秘めている。
 日本はこの流れについていけずに世界の下請けになってしまうのか、主流になって世界をリードしていけるのか。今その岐路に立たされている。
 次回のリグナ・ハノーバーは、2017年5月22日から26日に開催される予定。世界の木材業界がどう変化しているか、楽しみだ。

 

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傾斜材車
はじめに 
 2年に一度の木材加工機械業界の世界最大の展示会、リグナ・ハノーバー2015が今年も開催された。開催地ドイツのハノーバーは、新緑の若葉の息吹が感じられる一年で一番過ごしやすい時期でもある。朝晩は少し肌寒いが、日中は機械から発する熱と人の絶え間ない動きが相まって、展示会場内は活気と熱気に満ち溢れていた。
 ここ数年、ヨーロッパで開催された木工機械の展示会の動きは非常に鈍かった。2008年アメリカに端を発した世界的金融危機に始まり、ユーロ圏でも財政悪化する国が相次ぎユーロ危機が併発した。その煽りを木材業界及び木工機械業界もまともに受け、本来、木工機械業界にとっても“お祭り”であるはずの展示会は規模を縮小し、来場者数も減少という結果に陥っていた。
 リグナ・ハノーバーも2007年をピークにして2009年、2011年、前回の2013年と展示面積、出展者数そして来場者数は減少を続けていた。今回の2015年の展示会は、数字上では展示面積は減少したものの、来場者数は増加(前回90,000人→今回96,000人)したというから、景気の底は見えたのか。いずれにせよ、良い兆候である。
 来場者数については、主催者からの数字はわからないが、明らかに日本人の来場者は増えた。2009年以降の展示会でほとんど見かけることのなかった日本人が増え、逆に中国人そしてロシア人の姿が見られなかったのは、出展者からも多く聞かれた声であった。現状の各国の経済情勢の縮図がリグナ・ハノーバーの展示場に現れたといえる。

 
        展示会場北入口
リグナのテーマ
 1)今回のリグナ・ハノーバーのメインテーマは、ドイツが主導する「インダストリー4.0」。今やヨーロッパの産業界の潮流となっており、木工機械大手メーカーであるドイツのホマッグ、イマ、イタリアのビエッセ、SCMがこれを生産ラインに組み入れて具現化する試みをしていた。
 2)インダストリー4.0もしくは単品生産の流れをくんで、中小規模のメーカーでは各社独自のテーマの中で技術開発を進めていた。例えば、イタリアのPADEでは多品種生産に有効な「クイックセットアップ」をテーマにした装置の提案があり、日本の兼房は「歩留り向上」を日本的生産手段のノウハウの中から提案する試みがあった。

 
      スマートファクトリーの模型
 
 3)製材機械メーカーは、高精度スキャナーを駆使し、操作の更なる高度なコンピュータ化、オートメーション化を進めていた。これまでの超巨大製材工場による単一品大量生産型から、コンパクトで付加価値生産を高める生産システムへの新たな機械開発が行なわれていた。
 4)バイオマス関連の動きは日本では活発であるが、ヨーロッパではこの分野においては10年以上前から盛んに提案されてきており、今更目玉となるものではないが逆に安定した基盤を築いている様子が伺えた。

1. インダストリー4.0
 「インダストリー4.0」は“第四次産業革命”とも呼ばれている。“ネットワーク”により各媒体をつなぐことを基本とし、工場のネットワークから、会社のネットワーク、そして全産業のネットワークへと拡大していき、最終的には国全体としてデータを一括化して世界的な競争力を高めようというものである。
 この考え方を生産ラインの中に組み入れて、ことさら力を入れて展示会のメインテーマとしたのがドイツのホマッグとイマである。マスプロダクション(大量生産)から多品種少量生産へ、と言われてからいわゆる単品生産型の機械の提案は過去10年来続けられてきた。そして、更にネットワーク化で各媒体をつなげることにより、顧客の商品注文から、生産、出荷までを一元的にネットワーク管理できるようになった。それは“スマート工場”とも呼ばれ、マスプロダクションのような生産ラインで単品生産ができ、在庫ゼロ、消費エネルギーも節約できるシステムである。さらに、コストはマスプロダクションでかかる費用と同じコストで単品生産ができるのである。
 ソフトウェアでネットワークをつなぎ、管理する技術の革新が目につくが、機械的ハード面の技術革新とは何であろうか。従来、各機械をつなぐ役目を果たしてきたのは、コンベア等の搬送装置であった。しかし、インダストリー4.0でその役割を果たすのは、ロボットである。
 今回の展示会場の至る所で、機械の“女房役”としてせっせと活躍していたのがロボットである。展示会場内では地元ドイツメーカーのKUKAが圧倒的なシェアを占めていたが、日本の三菱やファナックのロボットも見られた。ロボットを搬送装置の代わりとして導入することにより、より正確で柔軟な動作ができること、場所によっては人間の代わりとして働くことができる。今後ますますロボットの活躍がラインの中でも期待できそうである。

 
     IMAのロボットによる搬送

2. 個別テーマ

 中小規模のメーカーでは独自のテーマで技術革新を行なっている。イノベーション的な革新的技術開発というよりは、機械が売れない時代の逆の産物かもしれないが、ユーザーの声を聞き、ニッチな要求に対応して細やかな製品開発に力を入れてきた様子が伺えた。
 イタリアのPADEは、「クイックセットアップ」という技術を開発し、従来のセット替えにかかるタイムロスを大幅に削減する提案をした。刃物交換、治具のセッティング、材料の供給などオペレータ作業を機械装置化し、さらに機械化による時間の大幅短縮に貢献するものである。

 
  PADE「クイックセットアップ」搭載マシン
                       

木製木工機
大工作業台
薪割機
リグナ・ハノーバー2015を視察して
寄 稿
URL 株式会社コーエキ
ポンセ林業機械
モバイル横バンドソー
モバイルチッパー
ホマッグ自動組立機
ホマッグ
先端技術開発
トイジャラン
ファナックロボット
ブリケット製造機
 ホ ー ル 見 て 歩 き
野 田 正 峰 (株式会社コーエキ)
巨大チッパー
製材用ハイテク操作
製材機ダブルアーバー
兼房
ロボット搬送
ヘイノラ
ホール27
ホルツ