「真庭は林業のまち。製材で出る端材や木くず、間伐材などを有効活用できないかと考えた」。真庭市バイオマス政策課の長尾卓洋課長はそう説明した。
 岡山市から北へ約五十キロに位置する真庭市は、二〇〇五年三月に九町村が合併して誕生した。合併時に五万四千人だった人口は、四万九千人にまで減少し、過疎化に悩んでいる。六十五歳以上の高齢化率は全国平均(25.1%)を大きく上回る35.1%に達する。
 面積は県内市町村で最も大きい。その79%を占める森林は六百五十三平方キロの広さがあり、十を超える林業者が原木の切り出し作業を担い、製材業者も市内に約三十を数える。
 市内で端材や間伐材を使ったバイオマス発電が本格的に始まったのは一九九八年。製材会社「銘建工業」が約十億円をかけ、本社敷地内に出力千九百五十キロワットの発電施設を建設した。
 自社の消費電力をほぼ賄い、夜間の余剰電力は中国電力に販売。電気代は年間約一億円安くなり、売電で五千万円ほどの利益が出るという。維持費を差し引いても、約一億二千万円のプラスになっている。
 銘建工業が他の製材会社や市などと共同出資した会社「真庭バイオマス発電」は現在、一般家庭二万二千戸分に相当する一万キロワ
ットの発電能力を備えた発電所を市内で建設している。
 来春にも稼働する予定だが、電気はPPS(特定規模電気事業者)に売却する方向で検討している。
 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、二十年間は一キロワット時当たり三四・五~二五・九円の高値で売れ、三年目には黒字化が見込めるという。
 利益は山の活性化のために投じられる。「燃料の需要を増やせば、それを山から運ぶために多くの人間が必要になる。頻繁に山に入ることで、森林の保全にもつながる。山で得たものは山に還元する。ここで成功モデルを提示し、全国に広がっていけばと思っている」(同社総務部)
 市もバイオマスには積極的だ。木くずを圧縮した筒状のペレットを燃料にしたボイラーなどを公共施設に導入。市庁舎や一部の小中学校の冷暖房、温浴施設の熱源に充てている。市内のエネルギー自給率は11.6%。全国市町村の平均4.4%を大きく上回る。
 長尾課長は「雇用創出効果も大きく、市民が地元を誇りに思う気持ちも生まれた」と胸を張る。
 市がバイオマス発電に取り組むようになったきっかけは一九九〇年代前半に、岡山市まで高速道路でつながる計画が明らかになったことだった。
 

 民間主導が鍵

 当時、合併前の久世町職員だった仁枝(にえだ)章さん(67)は「これといった観光名所もなく、集客力に乏しい。むしろ人が出ていってしまうストロー効果の方が大きいと考えた」と振り返る。
 危機感を覚えた仁枝さんは九三年、地元の三十~四十代の若手経営者らとともに「21世紀の真庭塾」を設立。あくまで一住民の立場で、東京のシンクタンクや企業、国など各方面から講師を招き、生き残りのために何が必要かを模索する勉強会を続けた。そこで出た答えが、バイオマスを利用した産業振興だった。
 銘建工業は発電施設を設置し、別の製材会社は木片を混ぜたコンクリートを製品化した。発電では〇三年、再生可能エネルギーの導入を電力会社に義務付ける法律の施行が追い風となり、軌道に乗った。
 事業の展開は林業の再生にもつながっている。安い外国産材の輸入量増加や他の建材の導入などで、全国的に林業は衰退気味。木材自給率は三割を切る。
 真庭森林組合の梶岡知幸組合長は「以前は間伐材の利用方法がなく、大半は山に置きっ放しだった。バイオマスが始まって林業者の数は三倍になり、多くの人間が作業をすることで山が生き返った。森林が八割の市で山を無視した産業振興はあり得ない」と説く。 

woodfast '14-5
木くず発電 山救う
特報
↑ 銘建工業の敷地内に設置されているバイオマス発電装置
↓ 木くずを圧縮して作った筒状のペレット=いずれも岡山県真庭市で


岡山・真庭市 林業過疎地で雇用創出
 福島第一原発事故以降、原子力や化石燃料に代わるエネルギーとして、木材などを利用したバイオマス(生物資源)発電が注目を集めている。普及はまだ進んでいないが、十年以上前から着々と事業を拡大している地域がある。中国山地の中央部に広がる岡山県真庭(まにわ)市だ。山間部の過疎地の成功モデルになるべく、エネルギーの自給自足とともに雇用創出にも挑む。(上田千秋)
中部のバイオマス産業都市
津など3市選定
 真庭市は今年三月、国の「バイオマス産業都市」の指定を受けたが、中部地方からは浜松市と津市が選ばれた。これに先立つ昨年六月には、愛知県大府市が選定されている。
 バイオマス産業都市は、内閣府や農林水産省、環境省など七つの府省が共同で推進。指定を受けると、関連の研究開発や施設整備に国の補助金などの支援が受けやすくなる。これまでに全国の十五市町村と一地域が選ばれており、木質バイオマス発電のほか、生ごみからのバイオガス発電、食品廃棄物のエネルギー利用などを目指す。
 また、中部地方では、主に民間が主体となった木質バイオマス発電所も各地で数多く計画されており、今年秋から二〇一六年にかけて相次いで稼働する見通しだ。

       写真資料:2014.05.17 中日新聞朝刊特報面(25頁)
 地産のエネルギーを使い、地域内で循環させるという発想は市民の間にも定着しつつある。農業清友健二さん(45)は木質ペレットを燃料とするボイラー三台を購入してトマトのハウス栽培を手掛け、野菜の直売所も運営している。
 「冬から春にかけて温度を一定に保つために使っている。ボイラーの購入費を差し引いても、石油より安くつく。山にあるものを燃料として使い、直売所で安く売って地元に還元する。中間マージンもないし、皆にメリットがある」
 ただ、バイオマス発電はどこでもできるというわけではない。木材そのものを燃やすのはコスト的に合わないため、端材や間伐材が一定量発生するという環境が必要。真庭市の場合、多くの製材業者や林業者の存在が条件を満たした。
 それに加えて、前出の仁枝さんは「行政が主導してしまうと、うまくいかないケースが多いと思う。首長が代われば政策も変わるし、担当職員の異動もある。むしろ、民間が音頭を取って、目標を共有しないといけない」と指摘する。